認知症患者の鉄道事故の責任は誰が負うべき?

 愛知県大府(おおぶ)市で認知症の男性(当時91歳)が1人で外出して列車にはねられ死亡した事故を巡り、JR東海が遺族に約720万円の損害賠償を求めた訴訟の上告審で、3月1日に、最高裁第3小法廷(岡部喜代子裁判長)が判決を言い渡す予定です。(以下の記事をご参照:
"認知症の徘徊で鉄道事故 91歳の妻に約360万円の賠償命令 名古屋高裁" http://m.huffpost.com/jp/entry/5209945
"家族の責任、最高裁が初判断へ 認知症患者の電車事故" http://mw.nikkei.com/sp/#!/article/DGXLASDG10H9V_Q5A111C1CR8000/
"家族の監督責任が争点に 上告審結審、来月1日判決" http://mainichi.jp/articles/20160203/ddm/041/040/151000c
"<認知症男性JR事故死>「負けられない」1日に最高裁判決" http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20160228-00000014-mai-soci
 そもそも、鉄道会社は、客のために、列車を安全に運行する義務があるはずです。そのために、ホームからの転落や軌道への予期せぬ侵入を防止する義務もあるはずです。
 しかるに、例えばホームからの転落防止のために柵を設けるべきだということが以前から言われているのですが、現実にはなかなか進んでいません。列車によってドアの位置がばらばらだという問題もあるらしいのですが、相互乗り入れによって複数の鉄道会社が関わる場合はまだしも、一つの鉄道会社でばらばらだからできないというのは安全意識の低さの表れ、鉄道会社の怠慢以外の何物でもありません。
 今回の件も、そう複雑なことはできそうもない認知症の方が軌道に侵入できてしまったことそれ自体鉄道会社の安全配慮義務違反、過失を強く疑わせる事情ではないでしょうか。現に無施錠のドアがあって軌道に簡単に出られた状況だったようです。下級審はそのドアから出たとは限らないという理由で鉄道会社側の過失を認めなかったそうですが、逆に鉄道会社側が通常要求される注意を十分払っていたのに通常では思いもよらぬ方法で出たため防止できなかったということを鉄道会社側が立証しない限り鉄道会社側の過失を認めるべきではなかったでしょうか。
 鉄道会社が被った被害はかかる鉄道会社自身の過失から発生したものであって、仮にご家族に何らかの過失があったとしても、相当因果関係はないというべきです。例えて言えば、認知症患者が軽い追突事故を起こし、被害者がむち打ち症の診断書を書いてもらうために病院に行ったところ、たまたま病院で発生した火事に巻き込まれて死んだようなものです。この場合認知症患者に車を運転させないようきちんと監督していれば追突事故は起こらなかったし、追突事故が起こらなければ被害者が死ぬという結果は生じなかったわけですが、だからと言って被害者死亡の責任を認知症患者の家族が負うのはおかしいでしょう。
 家族に認知症患者がいない方だって必ずしも人ごとではありません。都会ではホームが混雑しているためやむを得ず端の方を歩かざるをえないことがあります。もしうっかり転落でもすれば、柵を設けない鉄道会社側の問題は不問にして落ちた人が同じ論理で賠償請求されかねません。
 最高裁には国民の信頼を失わないような公正な判決を期待します。