定数是正と参議院 その2

 ごぶさたしてます。更新が大分遅れてしまいました。

 前回のブログで,国会議員の定数是正を第一院たる衆議院で徹底するには参議院の代わりに「地方」という「少数派」に配慮した選出方法による第二院を設けるよう憲法を改正することが必要であると述べました。では具体的にはどのような条文にすべきかが今回のテーマです。

 新しい第二院の名称は,従前の参議院と区別するため,ここでは仮に「道州院」とするという前提で話を進めますが,別に何でも構いません。「参議院」のままでも問題はなく,その場合は名称を変更するだけの改正,具体的には42条,46条,54条及び60条の改正は不要となります。

 本題に入りますが,「道州院」は選出された地方の利益を代表する議員の集まりですから,まずそのような法的位置づけを明らかにします。

 

第四十三条  両議院は、全国民を代表する選挙された議員でこれを組織する。

 両議院の議員の定数は、法律でこれを定める。

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第四十三条 衆議院は、全国民を代表する選挙された議員でこれを組織する。

2  道州院は、最大単位の地方公共団体を構成する住民を代表する選挙された議員でこれを組織する。

 両議院の議員の定数は、法律でこれを定める。

 

 そして前回のブログで述べたとおり,憲法の一般原則に反する選出方法は憲法上の定めによる例外とせねばなりませんから,その規定を置きます。

 

第四十七条  選挙区、投票の方法その他両議院の議員の選挙に関する事項は、法律でこれを定める。

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第四十七条  選挙区、投票の方法その他両議院の議員の選挙に関する事項は、この憲法に特別の定のある場合を除いては、法律でこれを定める。

2 道州院の議員は,最大単位の地方公共団体の区域において,選挙し,各地方公共団体において選挙すべき議員の数は,一人とする。

2 道州院の議員は,最大単位の地方公共団体の区域において,選挙し,各地方公共団体において選挙すべき議員の数は,すべての地方公共団体において,同一とし,法律でこれを定める。

 

「すべての地方公共団体」以下は端的に「一人とする。」でも構いません。「道州院」も現在の参議院と同じく一度に半数ずつしか改選しない前提ですので,一度に選出される数が一人なら「道州院」には一つの地方につき合計二人ずつ議員がいるわけです。うち一人はたとえば現職の知事のような文字どおりその地方を代表する人がなり,もう一人は専任で常に関わっていられる人を選べばよいのではないかと私は考えます(どういう人を選ぶかは私ではなく改正後の選挙で各有権者が考えることではありますが。)。「道州院」の議員は地方の代表者ですから,地方公共団体の一員であることと何ら利害が相反するものではなく,むしろ望ましいとさえいえるかもしれません。そこで,次のような条文を置くことにします。

 

第四十四条  両議院の議員及びその選挙人の資格は、法律でこれを定める。但し、人種、信条、性別、社会的身分、門地、教育、財産又は収入によて差別してはならない。

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第四十四条  両議院の議員及びその選挙人の資格は、この憲法に特別の定のある場合を除いては、法律でこれを定める。但し、人種、信条、性別、社会的身分、門地、教育、財産又は収入によて差別してはならない。

2 道州院議員は,その代表する住民の属する自治体又はその区域内にある自治体の長,議会の議員その他の職員と兼任することができる。

 

こうすれば,知事等は本来の職務で多忙ですから普段はもう一人の専任の議員が地方の利害を代表し,重大な局面では知事等が地方の意向を直接中央に伝えることができます。

しかし,従前の参議院は必ずしも地方の利害に関わるわけではない国政の懸案をすべて審議することが期待されているところ,多忙な知事等にそのような役割は期待できません。「道州院」の役割は,地方の代表として,「少数者」である地方の利益を侵害しかねないような法案の成立を阻止することにあり,地方の利害に関わらない国政の懸案すべてについて審議することまではそもそも必要ありません。そのようなことをしていては,多忙な兼任議員に無駄な労力を使わせた上,十分な審議も,従って適正な結論も期待できず,かつ必要な法案の成立までに無駄な時間を浪費し国政の渋滞を招くことにもなります。そこで次のような改正によって,「道州院」は阻止的権能だけを持たせるようにします。

 

第五十九条  法律案は、この憲法に特別の定のある場合を除いては、両議院で可決したとき法律となる。

2  衆議院で可決し、参議院でこれと異なつた議決をした法律案は、衆議院で出席議員の三分の二以上の多数で再び可決したときは、法律となる。

3  前項の規定は、法律の定めるところにより、衆議院が、両議院の協議会を開くことを求めることを妨げない。

4  参議院が、衆議院の可決した法律案を受け取つた後、国会休会中の期間を除いて六十日以内に、議決しないときは、衆議院は、参議院がその法律案を否決したものとみなすことができる。

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第五十九条  法律案は、この憲法に特別の定のある場合を除いては、道州院が,衆議院の可決した法律案を受け取つた後、国会休会中の期間を除いて六十日以内に、これと異なつた議決をしないとき(両議院で可決したときを含む。),法律となる。

2  衆議院で可決し、道州院でこれと異なつた議決をした法律案は、衆議院で出席議員の三分の二以上の多数で再び可決したときは、法律となる。

3  前項の規定は、法律の定めるところにより、衆議院が、両議院の協議会を開くことを求めることを妨げない。

4  参議院が、衆議院の可決した法律案を受け取つた後、国会休会中の期間を除いて六十日以内に、議決しないときは、衆議院は、参議院がその法律案を否決したものとみなすことができる。

 

第二院は,衆議院から送られた法案に対して,衆議院と異なった議決をするかしないかどちらかしか論理的にはありえませんから,改正案第一項の括弧書きは本来は不要です。しかし,実際問題としては,衆議院から送られた法案に対する第二院の対応としては具体的には①原案通りに可決,②修正して可決,③否決,④決議しない,の4つがありうるところ,②が「異なった議決」にあたるか否かは解釈が分かれる可能性があります。一部否決・一部可決という議決だと考えれば第二院で可決した部分に限って「異なった議決をしないとき」にあたり可決,つまり第二院の修正どおり法律となる,と解釈することになるでしょうし,修正したのだから「異なった議決」だと考えることもできるでしょう。私としてはこの場合についてまで現在の参議院の取り扱い(参議院の修正どおりに法律となる。)を変更する意図はありませんので,そのことを明確にするために改正案第一項の括弧書きを記載しました。①の場合は現行憲法なら59条1項,改正案でも59条1項に基づき衆議院案どおり法律となり,③の場合についてはそもそも現行憲法どおり改正しないという案ですので,いずれも取り扱いは現行憲法と変わりません。変わるのは④の場合だけで,現行憲法なら衆議院が59条4項に基づき否決とみなして再可決するのでない限り衆議院の法律案は廃案となりますが,改正案では「異なった議決をしないとき」にあたり,59条1項に基づき衆議院案どおり法律となります。

 ところで,「道州院」の議員は「少数者」である地方の代表ですから,国の行政の頂点に立つ内閣総理大臣という地位とは相容れない立場にあるというべきです。仮に地方公共団体の知事等との兼任を認めるのであれば,同じ人間が同時に地方公共団体の知事等と内閣総理大臣とを憲法上は兼任できることにもなりかねません。そこで,現在は憲法上は参議院議員でも内閣総理大臣になれますが,改正案では衆議院議員に限ることとしました。

 

第六十七条  内閣総理大臣は、国会議員の中から国会の議決で、これを指名する。この指名は、他のすべての案件に先だて、これを行

2  衆議院参議院とが異なつた指名の議決をした場合に、法律の定めるところにより、両議院の協議会を開いても意見が一致しないとき、又は衆議院が指名の議決をした後、国会休会中の期間を除いて十日以内に、参議院が、指名の議決をしないときは、衆議院の議決を国会の議決とする。

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第六十七条  内閣総理大臣は、衆議院議員の中から国会の議決で、これを指名する。この指名は、他のすべての案件に先だて、これを行

2  衆議院道州院とが異なつた指名の議決をした場合に、法律の定めるところにより、両議院の協議会を開いても意見が一致しないとき、又は衆議院が指名の議決をした後、国会休会中の期間を除いて十日以内に、道州院が、指名の議決をしないときは、衆議院の議決を国会の議決とする。

 

 ここまで述べてきた「道州院」の地方代表たる性質からすれば,そもそも内閣総理大臣の指名権自体「道州院」には認めるべきではない,内閣総理大臣の指名は,「少数者」たる地方の利益を守ることとは関係のない純然たる国政の懸案であって,そのようなことに「道州院」議員を煩わせるべきではないという考えもあり得るでしょう。しかし私は,国の行政の頂点に立つ内閣総理大臣の指名について一定の権限を「道州院」が持つことによって,国が「少数者」たる地方の意向に耳を傾けるようになる効果がある程度期待でき,また「道州院」側もそのような権限を持つことによってその結果に一定の責任を持つことになり,無責任な要求をかえって抑制する効果が期待でき,国と地方とのコミュニケーションを促進する効果が期待できると考えますし,最終的には衆議院の優越が認められていますから,過大な権限とまではいえないと思います。そして一定の権限を認めるという前提に立てば,「道州院」議員には積極的に審議をして早期に決議をしてもらうのでなければ,国の行政に空白が生じることになります。67条1項に明記されているとおり総選挙後最初に処理されなければならないとされている重要案件であることからすれば,「道州院」議員の手を煩わせるとしても不当とはいえないと思います。よって67条2項については第二院の名称以外改正の必要はないと考えます。

ところで,冒頭で,54条の緊急集会に関する規定については名称以外改正しないと述べましたが,「道州院」に緊急集会まで認めるのはやはりここまで述べてきた「道州院」の地方代表たる性質にそぐわないのではないか,「地方の利害に関わらない国政の懸案すべてについて審議すること」に変わりなくやはり「道州院」議員を無用に煩わせるのではないか,という疑問があり得るでしょう。しかし,緊急集会は文字通り緊急の場合にやむなく招集されるものであって道州院議員の手を煩わせるのもやむを得ない面があること,道州院議員も全国民の代表ではないにせよ選挙で選ばれた存在には変わりなく緊急時の代用としては不当ではなく,その措置も臨時のものであって効力は限られていることからすれば,改正まで考える必要はないと考えました。

 最後に,いくら第二院で「少数派」たる地方の意見を反映させるようにしても,それだけで第一院たる衆議院の定数是正がすんなり進む保証はありません。その是正のために訴訟に訴えるという手段がよく使われてきましたが,違憲故に無効とする最高裁判決が出たことはありません。これは世間では裁判官の考え方の問題とされることが多いように思いますが,法理論上のハードルもあるのです。

既に見たように,47条は「選挙区、投票の方法その他両議院の議員の選挙に関する事項は、法律でこれを定める。」と定めています(改正案では「この憲法に特別の定のある場合を除いては、」という文言を付け加えるわけですが。)。従って,選挙を無効としたところで,その後の再選挙の方式は法律で定めるしかありません。法律が改正されない限り,再選挙も無効とされた法律に則ってやるほかないことになります。もちろんその選挙結果を合憲・有効ということはできません。では法律を改正するとして,その改正手続をする議員は違憲・無効の選挙で選ばれた議員です。改正法に正統性を認めることができるでしょうか? 仮に,無効とする範囲を,2倍を超えた選挙区だけとか訴訟の対象となった選挙区だけなどと一部だけに限定したとしても,無効とされた選挙区の有権者は,救済されるべき一番の被害者であるかもしれないのですが,正統な代表を国会に遅れないまま新選挙区が決められてしまうことになります。

 そこで,私は,憲法81条を改正し,最高裁判所違憲と判断した法律について,それが民主的過程そのものを傷つけているために立法による救済に理論上障害があると認められる場合は,民主的過程そのものを修復する措置を一時的に取れるように定めてはどうかと考えます。つまり,最高裁判所が合憲と考える選挙区の区割りを定めて,その区割りに従って1回だけ選挙ができることにしてはどうかということです。1回選挙すれば合憲的な代表者がそろいますから,1回だけできれば十分です。また違憲とされた法律がその後改正されていたならば選挙はそちらに基づいてすべきであり,裁判所がわざわざ定めをする必要はありません。そしてそのような定めができるのは能力的な問題からいっても最高裁判所に限定すべきです。

 ではどのような条文にすればいいでしょうか? ここまでおつきあいいただいた皆様は私の提案に多少なりとも関心をお持ちいただけた方々だと思います。ぜひ皆様も考えてみてください。